時間の奥へ降りていく
地層を降りる階段、静かになる足音
ガラスドームから続くスロープを下ると、
福井県立恐竜博物館は一気に表情を変える。
「ここからが、本当の恐竜の世界だよ」
澪の声は、少しだけ小さかった。
天井は高いのに、どこか包まれる感じがする。
地下展示室。それは、地層をたどるように設計された空間。
蒼は、無意識に深呼吸していた。
建築が語る「時間」地下構造の意味
「この博物館さ、
地上より地下のほうが広いんだよ」
澪は、壁面に描かれた地層年表を指差した。
福井県立恐竜博物館は、
発掘という行為そのものを体験させる建築。
地上は現在。
地下へ降りるほど、過去へ近づく。
「だから、階段もスロープも、
ちょっとずつ傾いてるんだって」
蒼は、足元を見て納得した。
ティラノサウルスの前で、止まる時間
突然、視界が開ける。
巨大なティラノサウルスの全身骨格。
照明に照らされ、その影が壁に揺れていた。
「でか」
「ね。
でもね、不思議じゃない?」
澪は、恐竜を見上げたまま言った。
「こんなに強そうなのに、
もういないんだよ」
蒼は、その言葉に返事ができなかった。
澪の秘密、恐竜と重なる記憶
「私ね」
澪は、少し間を置いて話し始めた。
「昔、友だちとケンカしてさ。
それ以来、ここに来るの、ひとりだった」
蒼は、何も言わずに聞いた。
「恐竜も、環境が変わって、
生きられなくなったでしょ」
澪は、少し笑った。
「だから、
変わることって、怖いけど
悪いことばっかじゃないって思えた」
蒼の胸が、静かに温かくなった。

地下で見つけた、言葉にならない共感
地下展示室は、
恐竜の骨だけじゃなく、
人の心の奥も映し出す。
福井県立恐竜博物館は、
10代の迷いや孤独を、
そっと受け止めてくれる場所だ。



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