ガラスの建築に残る、静かな余韻
出会い|せんだいメディアテークという場所で
仙台の街を歩いていて、ふと足を止めた。
ガラスの箱のような建築が、冬の午後の光をやさしく映している。
「やっぱり、何度見ても不思議だよね」
隣にいた彼が、そう言って笑った。
私たちは20代後半同士。
恋人未満で、でも友達と言い切るには近すぎる関係だった。
ここはせんだいメディアテーク。
仙台を代表する現代建築で、観光スポットとしても知られている場所だ。
ガラス越しに街とつながるその姿は、
まるで「閉じない心」をそのまま形にしたみたいだった。
建築紹介|伊東豊雄が描いた、開かれた建築
せんだいメディアテークは、建築家・伊東豊雄の代表作のひとつ。
2001年に完成し、図書館、美術館、映像文化施設などを内包している。

「普通の建物って、柱があるでしょ。でも、ここにはない」
彼はそう言って、内部を見上げた。
床から天井まで伸びる、海藻のような不思議な構造体 チューブ構造。
それが柱の役割を担い、
そのおかげで、フロア全体がひと続きの大きな空間になっている。
「人が自由に動けるように、って考えられてるんだと思う」
ガラス、光、空気、視線。
すべてを遮らないこの建築は、どこか人の心に似ていた。
心の変化|静かなフロアで近づく距離
上階の図書フロアは、驚くほど静かだった。
本を読む人、窓辺で考えごとをする人。
それぞれが思い思いの時間を過ごしている。
「ここ、落ち着くね」
「うん。時間がゆっくり流れてる」
言葉は少なかったけれど、
隣にいることが、自然だった。
せんだいメディアテークは、
人に何かを強制しない。
ただ、そっと寄り添うように存在している。
だからこそ、
言えなかった気持ちまで、浮かび上がってしまう。

すれ違い|透明な建築と、見えない未来
夕方、外に出ると建物は違う顔を見せていた。
ガラスの外壁が、夕焼けと街の灯りを映し込む。
「きれい」
思わずこぼれた言葉に、彼は少し黙ったあと、
静かにうなずいた。
この旅が終われば、
またそれぞれの生活に戻る。
どこまでも開かれている建築とは違って、
私たちの未来には、はっきりしない境界線があった。
そのことを、
ここに来て、はっきりと感じてしまった。
別れ|ガラスに残った、温度
「また来よう」
彼は、やさしい声でそう言った。
約束とも、気休めとも取れる言葉。
「うん。きっと」
それ以上、何も言わなかった。
手をつなぐこともなかったけれど、
確かに、気持ちはここに残っている。
建築は、人を引き止めない。
ただ、記憶を静かに受け止める。
余韻|また訪れたくなる理由
後日、写真を見返していて気づいた。
せんだいメディアテークの写真には、
建物そのものよりも、空気感が写っている。
透明で、やわらかくて、少し切ない。
ここは、恋が始まる場所でも、
終わる場所でもない。
ただ、
自分の感情と向き合うための建築なのだと思う。
もし仙台を訪れるなら、
ぜひ一度、立ち寄ってほしい。
このガラスの建築は、
きっとあなた自身の物語を、静かに映し出してくれるから。



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